まずは、車いすに座っている時の姿勢についてです。当たり前ですが、車いすは座った状態で動くものですね。ですから、間違って車いすから落ちないように、安定した姿勢で座ることを求められます。そのため、車いすの座面はお尻の方が少し低くなっていて、座位が安定するようになっています。そして背もたれも少し後ろに傾斜しているので、背もたれに体をあずけた状態で安定した姿勢が取れるようになっています。
しかし、この姿勢は食事に適した姿勢と言えるでしょうか?
皆さんが食事を摂るときのことを思い浮かべてください。あるいは、実際に動作をやってみるといいかもしれませんね。
食事のとき、人は背を真っすぐにしています。そして食べ物を口に運んで飲み込む時は、少し前傾姿勢になるのです。車いすでの移動時には安定した良い姿勢である後傾姿勢は、食事の際には食べる事を難しくしてしまうのです。
後傾姿勢から、食べ物を口に運ぶ際の前傾姿勢になるには、安定した上半身のバランスや腹筋などの筋力も必要です。介護が必要なお年寄りにはかなり難しい動作であり、結局後傾姿勢のまま食事を摂ることになってしまうのです。
では後傾姿勢のままの食事は、何が悪いのでしょうか。
まず一つ目には、食事の入ったお皿を上から見る事ができなくなってしまいます。食事は味や香りだけでなく、目で見ても楽しむものです。食事が見えにくいと、食欲も湧かないですね。
次に、後傾姿勢だと食事が飲み込みにくくなってしまいます。人は食べ物を飲み込む際、気道に食べ物が入ってしまうのを反射的に防いで、食道に送り込むようにしています。後傾姿勢でこれを行うと、どうしても反射が起こる前に食べ物が気道側に行きやすくなりこれが飲み込みの間違い(誤嚥)につながるのです。
介護のプロが介護を行っているはずの介護施設で、誤嚥が起こりやすい姿勢で食事をしているというのは問題ですよね。
そして最後に、後傾姿勢だとどうしても体の前に食べこぼしをしやすくなります。食べこぼしが多くなると、服が汚れないようにエプロンをさせられ、利用者の気持ちを傷つけることにつながります。さらに、本来であれば不要な介助を受ける事にもつながり、自分で出来る力を奪う事にもなりかねないのです。
介助する側も、本来であれば不要な介助をしなければならないのは大きな負担になります。
このように、適切な前傾姿勢がとれないことも大きな問題ですが、もう一つ車いすでの食事には問題があります。
それは、足がしっかり床に着かないことです。
車いすは、フットレストに足を乗せた状態に合わせて座面の高さが調整されています。食事の時に、フットレストに足を乗せたままだと足が前方にあって食事が食べにくいので、普通はフットレストから足を下ろしますね。
このとき、座面の高さはフットレストの位置に合わせて調整してあるはずですから、足をしっかりと床に着ける事はできないはずです。足がしっかりと床に着かないと、安定した姿勢がとれません。不安定なままでは、必要に応じた前傾姿勢をとるのは、難しくなってしまうのです。
こんな問題がたくさんある車いすのままでの食事、ぜひ考え直してみてください。