支える椅子ができるまで

支える椅子をデザインしたケアスタディ株式会社代表の間瀬樹省です。支える椅子に興味を持っていただきありがとうございます。

私は千葉を拠点に活動する建築家です。私が設計している建物は、老人ホームなどの高齢者介護施設です。高齢になり介護が必要になっても、残された能力を活かしながら自分らしい暮らしができる(施設らしくない)場を設計したいと考えています。私の自己紹介を兼ねて、どのような経緯でこの椅子をデザインすることになったのかご紹介します。

私は、芸術学部の建築専攻を卒業後、家具メーカーに就職しました。家具メーカーは、家具を販売する際にそのレイアウトや内装の設計も行う事があるのですが、私はその設計セクションに入社したのです。そして、担当することになったのが、当時建設が急増していた高齢者介護施設でした。

当時は施設を建設するのは主に社会福祉法人、補助金が潤沢に出て豪華な施設が建設されていました。しかし、そこで暮らしているお年寄りは元気がなく、悪い表現で言うと「生かされている」ように感じられたのです。疑問に感じた私は、介護の本を読んだりセミナーに参加したりするようになります。

そこで、少数ながらお年寄りが元気に暮らせる施設があることを知って、そんな施設づくりに関わりたいなと思うようになりました。しかし私が仕事でやっているのは家具のコーディネイトが中心。もっと踏み込んだ空間づくりをするためには、建物から考えないとだめだなぁと思うようになって、独立を決意したのです。すでに会社に20年勤めてからの退職・独立でしたので、心配してくださる方、止めてくださる方もいました。しかし、ここで独立しないと一生後悔すると思い、思い切って独立したのです。

ここで一度話しは会社員時代に戻ります。介護施設を訪問すると、椅子がほとんど置かれていない食堂に遭遇します。最初は違和感がありましたが、次第に私も慣れていきました。施設に家具を提案する場合は、車いすの分を差し引いて少ない台数を提案するのがプロだ、そんな認識さえあったように思います。でもどこかおかしい、やっぱり椅子に座って欲しいなという気持ちは持ち続けていたのです。

あるとき、会社にあった車いすで過ごしてみようと思いました。こうすれば、車いすでの不便が理解できると思ったのです。そして車いすで食事をしてみると…驚きました。
「こんなに食べにくいなんて」

元気な私でも食べるのが大変でした。これが介護が必要なお年寄りだったら…

こんなことに気がつかず、介護施設の方に言われるがままに車いすでの食事を認めてしまっていたことに後悔しました。そして、移動の時は車いすでも食事の時には座り替えて欲しい、その為の椅子があればいいのに、と思うようになるのです。

施設での食事を観察すると、施設では介助を受けて食事をしている人が多いのですが、お食事の様子を見ると皆さんあまり姿勢がよくありません。よく見ると、家具は小柄なお年寄りに合わないサイズが多いですし、足が床に届いていない人もいます。車椅子のまま席についている人も同様に食べにくそうな姿勢で食事をしています。食事をするときは少し前かがみになると思いますが、ほとんどの人が椅子の背に寄りかかり、さらにお尻が前に滑り出た状態になっています。姿勢が悪いと気がついたら、職員が直すこともありますが、またすぐに元通りになってしまいます。この姿勢の悪さが、食事における自立を阻害し、介助が必要な方を増やしてしまっているように感じました。

車椅子での食べにくい姿勢

施設での食事を観察すると、施設では介助を受けて食事をしている人が多いのですが、お食事の様子を見ると皆さんあまり姿勢がよくありません。よく見ると、家具は小柄なお年寄りに合わないサイズが多いですし、足が床に届いていない人もいます。車椅子のまま席についている人も同様に食べにくそうな姿勢で食事をしています。食事をするときは少し前かがみになると思いますが、ほとんどの人が椅子の背に寄りかかり、さらにお尻が前に滑り出た状態になっています。姿勢が悪いと気がついたら、職員が直すこともありますが、またすぐに元通りになってしまいます。この姿勢の悪さが、食事における自立を阻害し、介助が必要な方を増やしてしまっているように感じました。

若く元気な人なら、食事が食べにくそうな姿勢になったら自分の力で直すことができますが、介護が必要な高齢者ではそれも難しい。ではどうしたら良いのでしょう。この問題を解決する為に、私は介護が必要な高齢者でも座りやすい椅子を提供することが必要だと考えました。体格に合わせて高さが調整できて、お尻が前に滑り出さず、食事に適切な軽い前かがみの姿勢を作り出してくれる椅子。こんな椅子があったら良いなと思うのですが、残念ながらそんな椅子は世の中にはありません。無ければ作るしかない、私はいつか椅子の設計をしなければと考えていました。

そんなときに偶然、椅子の設計を教える塾をwebで見つけます。仕事が忙しいことは忘れて、すぐに申込みをしました。椅子の設計を教えている場所は「椅子塾」といい、井上昇さんという人間工学に基づく椅子設計の第一人者の方が主宰されています。

私はここで、人間工学の基礎から製図の方法、模型づくりなど様々なことを学びました。そして井上塾長の「間瀬さんも折角だから製品化してみたら?自分ブランドの家具を持つ事は良い事ですよ」という言葉に背中を押してもらって「支える椅子」を世に出す事にしたのです。

椅子塾卒業生作品展

製品化のためには、試作、製品用の設計図の作成、家具の型の作成など様々な時間、人手、コストがかかります。会社としては本来仕事をするはずの時間が少なくなるばかりか、開発費もかかってしまいます。でも「もしかしたらこの椅子ができることで、施設でも椅子に座って食事できる方が増えるかもしれない」と考えると、開発を止めようとは思いませんでした。

そして椅子塾で椅子の設計に出会ってから1年1ヶ月後、設計した椅子を製品として発売することができたのです。

家具を製造する工場は、山形県にあります。この工場は、実は日本で販売されている非常に有名なブランドの多くの家具をOEMで製造している工場なのです。高い品質を求める有名な家具のメーカーが、この工場に製造を委託していることからもお分かりの通り、非常に高い品質のものづくりをしている工場ですので、支える椅子の品質には自信があります。非常に良い商品を作り続けてくださっているので、今まで故障などのクレームを受けたことは一度なく、工場の方には感謝している次第です。

工場での製品検討

椅子が良ければ姿勢も良くなります

まだ完全な製品では無いかもしれません。
まだ改良の余地があるかもしれません。
でも私が必要だと感じた機能はすべて盛り込んだつもりです。

支える椅子は、自分が想いを込めて設計し、従来の椅子よりもはるかにお年寄りが使う事に配慮していることには自信があります。ぜひ多くの方に試していただき、普通の椅子との違いを実感して欲しいなと思っています。

ケアスタディ株式会社 代表取締役
支える椅子設計者
間瀬樹省